米国UL508A SB4.1 SCCR値に関して要求される電線サイズの選定について

従来の制御盤設計では特別にSCCR値を考慮した電線サイズを選定することはなく、過電流保護機器(ブレーカ/ヒューズ)メーカーが推奨する負荷電流に応じた電線サイズを選定することが大勢を占めていました。

 

最近の動向として、米国向けについてはSCCR値の表示が求められていることは承知のことと思いますが、この規定をきっかけに過電流保護機器と各制御機器との協調した機器等の選定が求められるようになっています。然しながら、この機器選定の際に従来の制御盤設計に加えて考慮すべきことは要求されるSCCR値に応じた適切な電線サイズの選定が求められていることであり、オーバースペックとならず経費節減や省スペース化および軽量化に影響を与える電線サイズの選定は今後の設計における重要なポイントとなっています。

 

制御盤全体のSCCR値を決定するためには主回路で使用される制御機器(主電源開閉器・分岐回路用過電流保護機器・コンタクタやドライブ等のコントローラ・過負荷保護機器・端子台)の各SCCR値を確定することが第一ステップとなっていますが、忘れてはならないのが電線の選定についてもSCCR値の決定に不可欠な要素となっていますので注意する必要があります。すなわち、電線の選定については電線の許容電流値のみだけではなく短絡事故(あるいはSCCR値)における過電流保護機器の遮断特性との協調を考慮する必要があります。

 

 UL508Aにおいて過電流保護機器と電線との協調の具体的な選定方法の記述はありませんが、ヒューズと電線の協調に関してはUL508A Table SB4.2「Peak let through current Ip, and I2t特性表または特性曲線」を参照して確認することが求められています。なお、ブレーカと電線との協調に関しては各ブレーカメーカーのカタログ等による「Peak let through current Ip, and I2t特性表または特性曲線」から情報を得ることができます。

 

すなわち、回路で発生する短絡・地絡事故電流に対応すべき分岐回路の過電流保護機器としてヒューズあるいはブレーカを使用する場合にはそのメーカが情報提供している「Peak let through current Ip, and I2t特性表または特性曲線」によって協調する電線サイズを選定することになります。

各過電流保護機器メーカーが情報提供している「Peak let through current Ip, and I2t」特性表または特性曲線には最大通過エネルギーI2t値(ヒューズ/ブレーカが短絡事故電流により瞬時遮断するまでに通過する最大エネルギー値)が記載されています。UL508A Table SB4.2に記載されている I2t 値を始めPeak let through I2t 特性曲線より判定される通過エネルギー値は一般的に半導体の保護や電線との保護協調を確認するものとなっていますので、この値によって電線サイズを判断することがULでも求められています。なお、 I2t 特性曲線による I2t 値の判定方法はUL508A Figure SB4.1に記載されていますので、ご確認ください。

 

従がって、電線サイズは過電流保護機器(ヒューズ/ブレーカ)が短絡事故電流にて瞬時遮断するまでに通過するエネルギー値よりも大きいか、あるいは同等のエネルギー値を通過させることのできる電線サイズであることが求められ、これによってブレーカ/ヒューズとの協調を確認することができます。

よって、短絡時のブレーカの最大通過エネルギーI2t値 ≦ 電線サイズの許容エネルギー値(短時間許容電流値より算出)が要求され、

 

参考 IEC 60204-1 (2006版)

この協調の簡易条件式は I2t ≦ K2S2 、(本文章内を含め小文字の2は2乗を意味していますのでご了承ください)

以上より S ≧ √(I2t / K2)

 

S; 協調する電線サイズ(mm2

K; 電線被覆絶縁材質による係数

       PVC (Polyvinyl chloride)   115

       Rubber 141

      XLPE (Cross-linked polyethylene)  143

      

例、 ヒューズ Class CC 定格30A 600V 短絡事故電流;50kA、PVC電線の場合の協調する電線サイズは?

 

最大通過エネルギー I2t ; 7 x 103 (UL508A Table SB4.2より)

短絡故障電流50kAにおいてヒューズClass CCが保護できる電線サイズは S ≧ √(I2t / K2)より

   

S ≧ √(7 x 103/1152) mm2

   S ≧ 0.72 mm2

 なお、ブレーカの遮断特性がPeak let through I2t の特性曲線(特性曲線について、海外メーカー品はカタログに標準記載されていますが、国内メーカー品は特性曲線の情報を要求しなければ得られないのが現状であり疑問の残るところです)で表示されている場合は実際の短絡事故電流(例えば23kA等)における最大通過エネルギーのI2t値を詳細に得ることができ、その実際の推定短絡事故電流での協調する適切な電線サイズを選定することができます。この協調確認は分岐回路の過電流保護機器と電線サイズの選定以外にフィーダー回路や電源回路での電線選定にも適用されます。

以上